①フィロストラトス悪人説
「ああ、メロス様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」メロスは走りながら尋ねた。
「フィロストラトスでございます。貴方のお友達セリヌンティウス様の弟子でございます。」その若い石工も、メロスの後について走りながら叫んだ。「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」「いや、まだ陽は沈まぬ。」
「ちょうど今、あの方が死刑になるところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだ陽は沈まぬ。」メロスは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! フィロストラトス。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
②メロスは走っていない説
2014年当時中学生だった村田一真くんがメロスは走っていなかった?という検証をした。
「算数・数学の自由研究」作品コンクールに出展され、入賞される。
メロスが実際に移動した距離(10里/約39キロの道を往復)とその移動時間(往路10時間復路15時間)を計算すると、時速3.9kmとなった。(登坂や下坂のスピード上下も加味)
一般的に人間の歩行速度は、時速4kmである。
視点は素晴らしいけど、「算数・数学の自由研究」作品コンクールに小説の題材でいいのかと思ったけど、時速と移動距離なので中身は算数なのでセーフか。
③メロスが最後に赤くなったのは・・・
メロスが赤面したのは単に裸だったからか、それとも自己陶酔に近い行為そのものに対して赤くなったためかと斎藤美奈子さんという文芸評論家は論じている。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。
信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王様万歳。」
ひとりの少女が、緋のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
勇者は、ひどく赤面した。
④走れメロスが感動的なのは夕陽のせい?
文芸評論家の市川真人さんは、走れメロスが感動的であるのは夕陽のためと解釈している。
夕暮れ時=日中の活動(外の活動)と夜間の活動(内の活動)
夕暮れ時
→おかえりなさい
→家庭のあたたかさ、(家庭を出た人間にとっては)なつかしさ
夕暮れ時で、人は無意識にその家庭を想起し、家庭のあたたかさや懐かしさを自然と思い起こし、しみじみしてまうと。
この夕暮れの効果が、走れメロスを感動的なものとしていると。