あらすじ
詩人大谷の妻であるさっちゃんの元に
見知らぬ料理屋の経営者夫婦が乗り込んでくる。
「今日こそは逃さんぞ」
聞けば、夫大谷が小料理屋「椿屋」から店の資金を盗んで逃げていったという。
また、以前にも無銭で飲食すること、数えきれないほどという。
借金を返すため、さっちゃんは椿屋で働き始め・・
太宰治本人を妻の視点から描いたと言われる、放蕩夫を持つ妻の苦労が描かれる。
感想
数年ぶり、久しぶりに読んだ。
以前読んだ時は「あぁ、良い奥さんだな」という感想だったが、
もう一度読んだら、大きな衝撃を受けた場面が一つあった。
あれ、これなんで前読んだ時見逃した?
起きて電燈をつけて玄関に出て見ますと、さっきの若いひとが、
ほとんど直立できにくいくらいにふらふらして、
「奥さん、ごめんなさい。かえりにまた屋台で一ぱいやりましてね、
実はね、おれの家は立川でね、駅へ行ってみたらもう、電車がねえんだ。
奥さん、たのみます。泊めて下さい。ふとんも何も要りません。
この玄関の式台でもいいのだ。あしたの朝の始発が出るまで、
ごろ寝させて下さい。雨さえ降ってなけや、その辺の軒下にでも寝るんだが、
この雨では、そうもいかねえ。たのみます」
「主人もおりませんし、こんな式台でよろしかったら、どうぞ」と私は言い、
破れた座蒲団を二枚、式台に持って行ってあげました。
「すみません。ああ酔った」
と苦しそうに小声で言い、すぐにそのまま式台に寝ころび、私が寝床に引返した時には、もう高い鼾が聞えていました。
そうして、その翌る日のあけがた、私は、あっけなくその男の手にいれられました。
浮気の場面である。
さっちゃんはいろいろ苦労しているので、大谷が文句を言える筋合いはないのだが、
さっちゃんが理想的な妻と言われている中、もうちょっと物議を読んでも良いシーン
ではないかと思う。
ネットで調べたが、同様のことを気にしている人は見つからなかった。なんでだろう?