あらすじ
5月18日町から象が脱走した。飼育係の男性と一緒に姿を消した。
そのように新聞記事には書かれていたが、僕は違うという確信があった。
象は脱走したのではない、消滅したのだ。
象は町にあった動物園がつぶれるとき、高齢を理由に唯一他の動物園に移れなかった。
町は動物園の跡地を売り、宅地業者が跡地に高層マンションを建てることになっていたが、
象を殺すわけにもいかず、建設の遅れに伴い町は金利を払い続けていた。
象が消える前日の夜、僕はこっそりと象の小屋を見ていたが、
象と飼育員の大きさのバランスがおかしくなっていることに気づいた。
象は小さくなり、小屋の隙間から脱走してしまったのかもしれない。
象が消えてしまってから、何かをしようとしても
それがもたらすの結果とその行為を回避することで得られる結果の差異を見出すことができない。
象の事件以来、僕の中で正当なバランスが失われてしまった。
感想
どう解釈するか
そのまま読んでも全く問題ない。
象が消えてしまった、なぜかわからない、以上。
これはこれで不思議な世界観で楽しめる。
ただ、誰かに見てもらっている以上は、少しひねった解釈もしようと思う。
象=プライセルス、コスパ換算できない大切なもの。
象はそもそもコスパで測るべきものではない。
確かに動物園はビジネスとして成り立っていないといけないが、
象は子どもに(大人にも)自然とは、動物とは何か教えてくれ、
その接点となる大事な存在である。
一方で町は高速に都市化しており、
高層マンション(少ない土地でおそらく高所得の人を多数住ませられる)建設や
市役所での金利の計算が描かれている。
そこから象がはじき出されるのは自然な流れであり、
町の目立つところから隅っこに追いやられ、
脱走するということではなく、徐々に小さくなっていき消滅してしまう。
現代の日本において、コスパ換算するべきでないものが
少しずつ居場所をなくし消えていくということに注目した作品かもしれない。
※すみません、飼育員の話もからめたかったが、うまく書けず
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