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ウィズ・ザ・ビートルズ 感想

あらすじ

高校生の僕は学校の廊下である女の子に出会い

美しい容姿と柑橘系のシャンプーの香りに強い印象を受ける。

その女の子はウィズ・ザ・ビートルズのレコードを大事そうに抱えていた。

その後、僕は二度とその子を見かけることはなかった。

その後、僕はある女の子と親密な関係になる。

親しく付き合ううちに、彼女の家にも出入りするようになり、

彼女に兄と妹がいることがわかった。

彼女は妹をかわいがっているようで、一度3人で映画を見に行った。

妹はあまりきれいとはいえない容姿で、僕のことをあまりよく思っていないようだった。

一方、彼女は兄のことをあまりよく思っていないのか、僕に兄のことは詳しく話してくれなかった。

ある日、彼女との約束で彼女の家に訪問した僕は

彼女の兄に応対され「彼女は外出していて不在」と言われる。

せっかくだから上がっていくように彼女の兄から言われ、

家に上がり、彼女を待つ間彼女の兄と会話する。

最初に手持無沙汰で持っていた国語の教科書を読んでいると

なぜか小説を朗読してくれと彼女の兄に頼まれ、芥川龍之介の「歯車」の

一節を朗読する。「なかなか君は朗読がうまいな」と言われる。

彼女の兄は続けて語る。

「自分は、日常生活の記憶が飛ぶかなり特殊な病気を患っている。

一年に一回か二回記憶が飛ぶことがある。ジキルとハイドのように別人格に乗っ取られることはない。

ただ、そうはわかっていても、記憶が飛んでいる間自分が他の人間を金づちで殴っていないか心配になってたまらない。金づちで殴りたくなるような人間はたくさんいる」と

聞けば、それが原因で高校を不登校になり、何とか高校卒業はできたが、

大学に入ることもできていないという。

結局、その日は僕が約束の時間を間違えたことがわかり、その話を聞いて僕は帰っていく。

その後、東京の大学に進学した僕は、他に好きな人ができたことを彼女に告げると

彼女は無言でその場から去っていった。

それから18年後、35になった僕は東京で暮らしていたが

彼女の兄と偶渋谷で再会した。

彼女の兄は奇跡的に病気が治り、大学に進学し、親の事業(医療機器の輸入だか輸出だか)を

受け継いで「人並みにやっている」とのこと。

彼女は今どうしているか聞いたところ、「数年前に死んだ」と聞く。

26の時に勤めていた損保会社の同僚と結婚し、子どもを2人産んだが、32の時に自殺したという。

特に遺書はなく、悩んでいる様子もなく、家族仲もよかったというが、

医者からもらった睡眠薬をためておいて一気に飲んだという。

ずいぶん前から計画していたようだ。

最後、彼女の兄は「彼女は君が一番好きだったと思う」と僕に言い

彼女の兄の背中は街に消えていった。

感想

彼女はなぜ自殺してしまったのか読み終わってから

考えたがちょっとわからなかった。

一番好きな僕と結ばれなかったのが原因で心に傷を負ったのなら

別れた直後に自殺すると思う。その後、32歳まで生きて家庭を作った後に

自殺する理由はわからない。

これは、わからないまま置いておこうと思う。

いつか自分なりに解釈ができる日がくるかもしれないし、

来ないかもしれない。

物語ること

この作品では物語ることが一つのキーポイントになっている。

※ねじまき鳥クロニクルを読んだ時にどこかの批評で見たが、詳細は記憶になし。

彼女は兄のことを、腹にたまったものを物語ることなく

僕と過ごし、やがて亡くなってしまった。

対して、彼女の兄は自分の病気のことを僕に物語った。

(初対面の妹の彼氏にここまで語るのはすごい。歯車の朗読を頼むのも。。)

その後、奇跡的に病気が治り、日常生活を送ることができるようになり

大学を卒業し、親の事業を継ぐことになる。

そして、18年後に再会した僕に再び自身の身の上のことと

妹のことを物語り、去っていく。

彼女は、兄の病気のことを僕に物語ることはなく死んでいった。

対して、彼女の兄は妹の死を僕に物語った。

自身のことを物語った人物がセラピーとして

自分を取り戻していく、社会的肉体的に復活していくことは

他の村上春樹作品にもよくある構図だ(ったような気がする)